CTOインタビュー

世界初となるエンドツーエンドの完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワーク(注1)構築プロジェクトを率いた楽天モバイル株式会社 代表取締役副社長 兼 CTOのタレック・アミンに、通信の未来をどのように見ているか聞いてみました。

スペイン・バルセロナで開かれた携帯関連見本市「MWC」で2021年Global Mobile (GLOMO) Awardsで2つの賞を受賞しました。(注2)どのような変化がありましたか?

今回、世界的な評価をいただいたことで、楽天モバイルに対する皆様の認識が大きく変わったように感じます。以前から当社の動向に注目いただいていましたが、通信業界において、未来のビジョンを示すネットワークアーキテクチャを持つ会社だと認知されるようになりました。多くのグローバル通信事業者がしのぎを削って目指すその先に到達しようとしているのです。Open RAN(注3)は、もはや研究段階を超え、世界中の大手モバイル通信事業者が競って追い求めるものへと変わりました。

今回の受賞は、楽天モバイルがこの技術領域で先駆者になったことを示しました。私たちはイノベーションを起こして業界に一石を投じ、無線アクセスネットワークのサプライチェーンに多様性を取り入れました。Open RANを懐疑的に見ていた人たちの認識も変化してきたように見えます。私は様々な国際的フォーラムに参加させていただいていますが、「楽天モバイルは未来の通信事業者が目指す理想像を体現している」と評価いただくことが多くなりました。

世界初となるアーキテクチャでネットワークをゼロから構築するプロジェクトはどのように始まったのですか?

2018年に、私たち楽天モバイルは、とても野心的な目標を掲げました。完全にオープンかつセキュアで、クラウドネイティブ、自動化を導入したOpen RANベースのネットワークを構築することです。

当時は、これができれば理想的だと言われていましたが、まだ存在しない技術を使って大規模なイノベーションを起こせるのか、懐疑的な意見も少なくありませんでした。
それからわずか2年ほどで、ゼロからのネットワーク立ち上げに成功します。この規模で、この速さでプロジェクトを進めたのは、通信業界では前例のないことです。

しかし業界の人々が本当に驚いたのは、私たちが立ち上げたネットワークの品質だと思います。音声、データ、対象エリアといった各種の主要パフォーマンス指標において、楽天モバイルのネットワークは、世界のモバイル通信事業者の上位10位以内に入っていると評価されました。(注4)

世界のどこを見ても、最高の顧客体験を提供しようという日本のこだわりに匹敵するものはないでしょう。この国では、高品質なサービスを提供することが社会の一部に組み込まれていると私は考えています。

楽天モバイルが日本の通信業界にもたらそうとしているイノベーションは、どのようなものでしょうか?

楽天が携帯キャリア事業に参入する以前、日本の市場は3社に寡占され、携帯料金が高止まりしていました。料金プランは非常に複雑で、申し込み手続きのデジタル化はほぼ行われておらず、店舗に足を運んで契約手続きを完了するまでには驚くほど長い時間がかかっていました。私たちはここにイノベーションをもたらすチャンスがあると見たのです。

楽天モバイルは最初、データ利用量の上限なしで月額2,980円(税込3,278円)というシンプルなワンプランのみで本格的なサービスをスタートしました。日本のお客様が毎月支払う通信料を大幅に節約できるように貢献しました。

また、契約手続きを大幅にデジタル化したため、手続きに何時間もかかることなく、数分で完了します。携帯ショップに一日中座っているよりも有意義な時間の過ごし方は、いくらでもありますからね。

また、楽天モバイルの強みは、楽天グループが提供する70以上のサービスで形成される「楽天エコシステム」と連携した時に大きく発揮されます。実際に、携帯サービスのお申し込みをきっかけに、楽天市場でのお買い物をはじめ、銀行、ペイメントなど多くのサービスを広く横断的に活用されているお客様が多くいらっしゃいます。

楽天モバイルが事業を開始する前、楽天が大手携帯キャリアにとって脅威になると考えていた人はいなかったと思います。でも、今やご契約者様の数も順調に増えており、第4の携帯キャリアとなったことで、他社が今までとはまったく違う見方で私たちを捉えているように感じます。

楽天モバイルが培った技術をグローバルに展開することは、以前から決まっていたのでしょうか?

楽天が携帯キャリア事業に参入を発表してから3年ほど経ちましたが、社内の誰もが「このネットワークは、日本のためだけに構築しているのではない。世界にも展開していくべきだ」という意識を持って業務にあたっています。

楽天は、通信のためのプラットフォームを構築しています。これを海外に展開することは、国内の通信事業者が実現できていないことです。楽天モバイルが国内で構築したネットワークは、プラットフォームのアジャイルさ、コスト構造、運用の自動化による効率性といった点で、非常にユニークな強みを持っています。Open RAN、OSS(運用支援システム)、BSS(ビジネス支援システム)、オーケストレーション技術に関して、楽天モバイルが保有している技術的な資産を活用することで、業界の既存サービスに引けを取らないサービスを、新しい方法でより安い価格で提供できるのです。

楽天モバイルのようなネットワークを構築・管理するためのチーム作りは、どのように行っているのですか?

私は、面接を行うとき、技術的な能力はもちろん必要なのですが、その人の考え方や思考能力、与えられた枠の制約を乗り越える力を重視しています。チームの全員に、乗り越えられない壁はないということを理解してほしいのです。心に決めたことを、強い決意、信念、献身をもって行うのなら、エベレストにだって登ることができます。

私にとってのもう1つの大きな課題は、自動化です。日常的な反復業務をしている人を見ると、その人の知性を無駄にしているように思われて、本当に悩ましいのです。チームには本当の意味で活躍してほしいので、自動化の開発・導入を強く後押ししています。

楽天モバイルでは誰もが、年齢に関係なく、キャリアアップを実現するチャンスがあります。必要なことは、技術やイノベーションに対する考え方に革新やブレイクスルーを起こすことです。
楽天モバイルは、世界中の様々な国・地域から優秀な人材を呼び込むことができています。これによって得られる多様な視点は、組織にとって、とても強力な資産になっています。

ご自身は、どうして通信業界でキャリアを歩むようなったのですか?

学生時代は物理学と電気工学を専攻し、1996年に大学を卒業しました。その後キャリアをスタートし、インドで新規ネットワークをゼロベースで立ち上げ、2Gの世界から、先進的なデータプラットフォームへと移行させるという、壮大なプロジェクトを手掛ける機会を得ました。

この経験から、私は通信業界を、業界の常識とは異なる角度から見るようになりました。ソフトウェア化できる機会、つまり自動化を導入して生産性を向上できるものとして常に見てきました。

私自身の持つスキルは、必ずしもハードウェア設計に特化したものではありませんでしたし、また、ハードウェア設計には強い関心も持っていませんでした。それよりも興味があったのは、独自に設計された全てのハードウェアを、ソフトウェアでできたプラットフォーム上で稼働させることに関心を持っていました。楽天に来て、遂にその夢を叶えることができました。

楽天モバイルの将来について教えてください。

B2C(消費者向け)市場で行ってきたような革新を、B2B(法人向け)の領域でも起こせる可能性が大いにあると見ています。私たちは、従来のネットワークアーキテクチャでは実現できないような、法人向けサービスも開発し、提供したいと考えています。

将来的には、オートノマス・ネットワーク(自律的なネットワーク)という夢の実現を目指しています。自動車業界における自動運転と同じようなもので、障害に強く、非常に安定したサービスの提供を実現するものです。ネットワークがエンジニアによる介入なく、自己管理、自己最適化、自己構成を行えるようになると、エンジニアのリソースを他のことに有効活用できるようになります。

最後に、私たちが胸を躍らせていることとして、衛星通信ネットワークサービス「SpaceMobile 」を提供する米AST & Science社(AST社)への出資と戦略的なパートナーシップの締結があります。楽天モバイルが、国内で基地局を設置して提供しているサービスエリアと、AST社が開発する、お手元のスマートフォンやデバイスに直接サービスを提供できる衛星通信ネットワークの組み合わせにより、これまで以上に通信サービスが使える場所を広げられることになるでしょう。

国連専門機関である国際電気通信連合(ITU)の調査によれば、世界では、30億以上もの人々が、インターネットという生活に欠かせない基本的なサービスを利用できない環境で生活をしています。これに対するソリューションを開発することは、私たちが今後グローバル市場にアプローチしていくうえでも、重要な点になってくると考えています。

(注1)大規模商用モバイルネットワークとして(2019年10月1日時点)/ステラアソシエ調べ

(注2)Mobile Technology categoryにおいて、楽天モバイルのKubernetes上で稼働する5G Open RAN技術が、CTO Choice: Outstanding Mobile Technology AwardとBest Mobile Technology Breakthroughの2件を受賞しました。

(注3) Open RANは、無線の送受信装置などの仕様をオープンにして、様々なベンダーの機器やシステムとの相互接続を可能とする標準化された無線アクセスネットワーク(RAN)です。

(注4)2021年6月モバイルネットワークの国際都市比較調査/ドイツ・ウムラウト社調べ(2021/06 Audit Report - First OpenRan Network Rakuten Mobile(英語のみ)

楽天モバイル株式会社 代表取締役副社長 兼 CTO タレック・アミン