【技術解説】自己学習するネットワークとは?オートノマス・ネットワークについて楽天モバイルのデータサイエンティストに聞きました(後編)

この【技術解説】シリーズは、楽天モバイルのネットワークに導入しているテクノロジーや今後注力していく分野について解説する連載記事です。

今回は、前回掲載した「オートノマス・ネットワーク」(自律的なネットワーク)についての解説記事の後編です。前編に続き、楽天モバイルで無線アクセスネットワークのデータサイエンスに携わっているPetrit Nahi(ペトリット・ナヒ)さんに学習するネットワークについてお話を伺いました。

 
高速道路上で車が他の車を回避して車線変更するイメージ

楽天モバイルのスマートなネットワーク

楽天モバイルは、日本で構築しているネットワークにおいて、エンドツーエンドでパフォーマンスを最適化するため、「Self-organizing network(自己組織化ネットワーク)」ソリューションを使用しています。このシステムでは、ネットワークのパフォーマンスという観点から異常が起きていないか検知するために、高度な知識とデータドリブンなアルゴリズムをフル活用しています。

楽天モバイルでは、複数のデータソース、高度なAI技術、自社エンジニアの知識を組み合わせることで、従来の「自己組織化ネットワーク」の考え方をはるかに超えたシステムを活用しています。このシステムでは、異常を検知するだけでなく、それらの根本原因を突き止め、解決に向けたステップの提案を行っています。

例えば、楽天モバイルのパートナー企業の1社である米AirHop Communications社が提供する、準リアルタイムの「Inter-cell interference cancellation function(基地局のセル間干渉除去機能)」を、いわゆる「干渉軽減」のために使用しています。楽天モバイルは、このソリューションを使用することで、ネットワークの最適化やユーザー体験の改善につなげています。生成されたデータは、ネットワークの最適化に必要な他のネットワークデータと組み合わされ、各基地局に実装されているソフトウェアコンポーネントが、他の基地局との干渉(通話品質やその他の通信品質に影響するもの)のレベルを測定します。その後、必要に応じて、信号を伝達する無線の周波数が変更されます。これは、高速道路上で車が他の車を回避して車線変更するのと似ているかもしれません。

結果、機械学習によるアンテナの自動傾斜最適化アルゴリズムが、干渉を最小化しネットワークのエリアカバーを改善することで、エンドユーザーがネットワークを利用できやすくなります。ソーラーパネルが、太陽の方角を向くように最適化されるのと同様に、楽天モバイルのアンテナはデータと機械学習を活用して、自動的に傾斜しネットワークを最適化します。

太陽の方角を向くソーラーパネルイメージ

楽天モバイルでは、オープンな無線アクセスネットワーク(Open RAN)を導入したネットワークとクラウドネイティブなアーキテクチャにより、このようなインテリジェントなシステムをシームレスにネットワークへ導入することが可能となりました。

 

次に起こることを予測できるように

楽天モバイルが構築した新しいモバイルネットワークは、急速に進化しています。これらのシステムに使用されるアルゴリズムもまた進化を必要としています。統計的学習と機械学習のシステムが、ネットワークの実際のデータを処理し、アルゴリズムを精緻化し続けています。システムが、データにより多くのパターンを検出するにつれて、システムは異常の検出のみならず、次に起こることを予測できるようになっていきます。

ペトリット・ナヒ:ネットワークに混雑や品質劣化(接続性やネットワーク反応速度の低下)が発生した場合、楽天モバイルでは、誰がネットワークに接続していて、誰が影響を受けているかをモニタリングできますが、それと同時にトラフィックのパターン、ユーザーの利用状況、通信障害がどれくらい続くのか、影響範囲の予測をすることができます。ネットワークは、利用可能なリソースを調整することで、ネットワークの劣化に応じて、補正することを学習しています。

 

クラウドが重要な役割を担う

これらのことが可能なのは、楽天モバイルのネットワークが、従来ネットワークと比べて高い順応性、柔軟性、オープンさを備えたアーキテクチャで構築されていることによります。決定的な要因は、ネットワークに必要なソフトウェアが、すべてクラウド上で稼働しているという点で、これにより素早いソフトウェアの再設定が可能となります。特殊なハードウェアに依存することもありません。このクラウドネイティブで仮想化されたネットワークアーキテクチャにより、楽天モバイルのインテリジェントなシステムは、ネットワークのさまざまな構成要素で何が起きているか確認し、パラメータの調整が必要な場所で、必要なデータへ容易にアクセスすることができます。

ペトリット・ナヒ:この楽天モバイルが構築した新しいアーキテクチャは、ネットワーク全体を劇的に簡素化させ、新しいアプローチを可能にしています。

楽天モバイルのネットワークの全データは主要なデータセンターに集積され、そこで迅速な分析が行われます。結果、楽天モバイルのネットワーク運用センターのダッシュボードにはネットワークの現在の状況と今後の変化予測の両方が表示されます。この合理的で柔軟なアーキテクチャのおかげで、現在10,000超の基地局を設置しているにもかかわらず、楽天モバイルのネットワークは、たった130人のエンジニアチームで管理されています。従来の通信事業者と比べ、はるかに少ない人数のエンジニアです。楽天モバイルはネットワークを拡大しており、2021年夏までに日本における人口カバー率96%以上を計画していますが、エンジニアチームは比較的少人数のままで推移する予定です。

 

自己組織化から完全自律化への道のり

現在、楽天モバイルは、まだ大部分において、人による監視と自動監視を併用するハイブリッドモデルに依拠しています。しかし、今後、ネットワーク内において、実施可否の判断が比較的簡単な箇所においては、完全なる自律システムの配置を目指しています。自律化への工程で重要なステップは、ネットワークにおける「自己学習」の導入と、その適応です。技術の進歩につれて、これらのシステムがより大きな責任を担い、ひいてはユーザーへより高い信頼性や品質を提供するようになると、ナヒさんは期待しています。

実際、楽天モバイルのCTOであるタレック・アミンは、当社のモバイルネットワークアーキテクチャが「レベル4」の自動化(ネットワークが、必要とあれば人手を介さずに稼働する状態)を、早ければ2022年にも実現できる可能性があると述べています。

タレック・アミンは、2020年10月に開催されたTM ForumのDigital Transformation Worldイベントにおいて「私たちがネットワークで行おうとしていることのすべての基盤は、自動化であると考えます。5Gでも4Gでも、すべての鍵は自動化をどう行うかです。当社は、2年以内にレベル4の自律的なネットワークの実現を目指しています。基礎レベルのインフラストラクチャに起きうる問題のリアルタイムな対処に必要な自己組織化・自己最適化されたネットワーク。これはもはやホワイトペーパーではありません」とコメントしています。

自律的なネットワークの力を活用することで、楽天モバイルのシステムはさらに効率化、効果的なものへと進化していきます。これが最終的には、よりコスト効率の高いネットワークを提供し、エンドユーザーの顧客体験を向上していきます。

 

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