「スペースモバイル」でどこでもつながる通信へ、楽天モバイルの挑戦

楽天モバイルは、楽天グループが出資している米・AST SpaceMobile(AST)と低軌道衛星を使って宇宙から送信するモバイルブロードバンドネットワークを構築し、地球上におけるモバイル通信サービスの提供エリアを拡大する「スペースモバイル」プロジェクトに取り組んでいます。

このブログでは、国内サービスの実現に向けた、プロジェクトの概要と担当者へのインタビューをご紹介します。

 

日本の携帯キャリアの面積カバー率は、現状、国土の70%程度にとどまると言われています。人々が居住・往来する場所では問題なく通信が使えても、山岳地帯や無人島など、地上に携帯電話の基地局を建てにくい地域をエリア化するのは、難しいのが現状です。

「スペースモバイル」プロジェクトでは、宇宙空間に打ち上げた低軌道衛星から地上に向けて直接電波を発射することで、山岳地帯や離島などのエリア化や、災害時に被災地の基地局が損壊しても、通信サービスを継続して提供することを目指しています。

また、「スペースモバイル」の最大の特長は、現在、皆さんが使用しているスマートフォンや携帯電話でも通信サービスを利用することができる点です。サービス提供を開始した際には、衛星通信用の専用端末を用意する必要がなく、普段、使い慣れている携帯電話で、日本国内で広く通信サービスを利用できるようになるでしょう。

 

楽天モバイルで「スペースモバイル」プロジェクトを進める松井さんにインタビュー

楽天モバイルでどのような仕事を担当していますか?

現在は衛星通信部の部長として、地上回線の利用が難しいエリアに設置する基地局、災害対策用の移動基地局車や可搬型基地局のバックホールを衛星回線でつなぐ取り組みを統括しています。そのほか、「スペースモバイル」プロジェクトで、ゲートウェイと呼ばれる地上設備の準備を担当しています。

楽天モバイル株式会社 衛星通信部長 松井譲さん

「スペースモバイル」プロジェクトを始めてから、どのようなことに取り組んでいますか?

衛星と楽天モバイルのネットワークをつなげるためには、ゲートウェイと呼ばれる地上設備が必要です。プロジェクトの最初のステップとして、ゲートウェイを設置する土地を探すことから始めました。「スペースモバイル」は低軌道衛星を使用するので、ゲートウェイの設置場所は見通しが開けている必要があります。他の条件も含め、すべての条件を満たす場所を慎重に探して候補地を決めました。次に、候補地で電波環境調査を行い、衛星とゲートウェイ間の通信(フィーダーリンク)に使用する周波数に干渉するような電波がないか確認しました。

今年の夏にはASTが「スペースモバイル」の試験衛星「BlueWalker3」を打ち上げる予定で、日本での試験も今後予定しています。現在は、この試験で使用するゲートウェイの建設や試験に必要な免許の申請を進めています。

また、楽天モバイルとしては「スペースモバイル」が日本国内で利用できるよう、制度面の取り組みも行っています。「スペースモバイル」で使用する電波が、既存あるいは今後想定されるシステムと干渉しないように共用検討を行うほか、国内の制度変更について総務省や関係省庁と議論をしています。例えば、通常の携帯電話は「陸上移動局」という無線局の免許を取得することで通信が行えるようになりますが、衛星との通信においては、現行の制度では「携帯移動地球局」という異なる無線局の免許が必要になります。「携帯移動地球局」では、これまでに取得した携帯電話の技術基準適合証明(技適)等が使えず、皆様が普段使用している携帯電話ではそのまま衛星と通信してはいけないという制度になっています。今後、制度の変更が必要になると考えています。

「スペースモバイル」はどのような通信方式なのでしょうか?仕組みを教えてください。

「スペースモバイル」は通常の携帯電話と通信しますので、特殊な通信方式は使用しません。「スペースモバイル」のサービス開始当初に日本で提供するサービスでは4Gの通信方式を予定しています。衛星と通信する際にはドップラーシフト(注)や遅延が発生するので、これらを地上設備で補正し、無線基地局(eNodeB)での処理にも修正を加えることで、携帯電話から地上の基地局と通信しているかのように衛星と通信することができます。地上設備を更新するだけで5G等の通信方式にも対応可能です。

「スペースモバイル」プロジェクトのアーキテクチャ

 

「スペースモバイル」プロジェクトを進めるうえで、楽天モバイルの強みは何でしょうか?

今までに誰もやったことのないことに挑戦する、チャレンジ精神を持っていることが楽天モバイルの強みです。「スペースモバイル」はこれまでにない新しい技術ですが、楽天モバイルが「絵に描いた餅」と言われていた完全仮想化技術を実現したのと同じように、「スペースモバイル」も必ず実現できると確信しています。また、仮想化技術は「スペースモバイル」のシステムでも使われており、当社が開発した先進技術を活用できるのも強みです。

ASTとは日本でサービスを始めるにあたり、何が必要なのか頻繁に議論し、一つ一つ課題を明確にして取り組んできました。ASTとのミーティングだけでなく、社内のミーティングや資料もすべて英語です。英語を公用語とする楽天グループの一員である楽天モバイルだからこそ、コミュニケーションが取りやすいと思います。

プロジェクトを進める中で、やりがいに感じていることはありますか?

衛星通信の中でよく使われている言葉で「Connecting the Unconnected(つながっていないものをつなげる)」という言葉があります。「スペースモバイル」のような先進的な技術に携われるだけでなく、通信サービスを必要としている人々や地域にサービスを提供することにやりがいを感じています。また、前職での静止衛星通信や低軌道地球観測衛星に関する知見を「スペースモバイル」プロジェクトでも活かしながら、モバイルネットワークについて改めて勉強できるのも面白いです。

「スペースモバイル」が実現すると、日本のモバイルネットワークはどう変わりますか?

「スペースモバイル」の通信サービスが使えるようになると、日本国内どこでも通信サービスが使えるようになるでしょう。例えば人が住んでいないような山間部などは未だに圏外のエリアが多いですが、そのような環境で働いている林業関係者やインフラ工事従事者、登山者にも通信サービスが届くようになります。携帯電話が使えるようになることで、緊急事態が発生したときの連絡手段の確保が容易になります。また、電話だけでなく、インターネットにアクセスできるようになるので、ICT技術を活用して仕事ができるようになります。

災害時に陸上の基地局が損壊しても、「スペースモバイル」では衛星から電波を発射することで、被災地での通信手段を確保できるようになります。災害時の安否確認や情報収集に貢献できると考えています。

 

「スペースモバイル」の実現に向けた意気込みを教えてください。

今後、日本で実施予定の「BlueWalker3」での通信試験では、一般的に使用されている携帯電話と衛星が直接通信できることを確認する予定です。これは「スペースモバイル」という画期的なサービスを実現するうえで重要なステップとなりますので、まずはこれに向けた準備を一つ一つ確実に進めていきます。私自身、1人のユーザーとして将来「スペースモバイル」を利用できることを楽しみにしていますので、サービス実現へ向けて全力で取り組みたいです。

(注)ドップラーシフトとは、電波等を発する物体が移動する場合に、送波する側と受波する側との相対的な速度差によって、周波数が変化する現象です。

 

 

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