5Gでは、モバイルネットワークに対する様々なサービス品質要求に、迅速かつきめ細かに応え、ネットワークを用途に応じて仮想的に分割する技術「ネットワークスライシング」が本格化していきます。
楽天モバイルでは、モバイルネットワークをエンドツーエンドで自動的にスライスする「ネットワークスライスオーケストレーション」技術を開発しています。この技術の実現により、5Gにおける様々なネットワーク用途に合わせた最適なネットワークスライスを自動で運用・管理し、高品質な通信サービスの提供を目指しています。
オーケストレーションとは、オーケストレーターと呼ばれる機能を用いてネットワークの装置構成や使用状況を自動的に設定・管理・調整する技術です。このオーケストレーションをネットワークスライシングと組み合わせることで、「ネットワークスライシングの自動設計」「サービス品質の監視・保証」「障害からの復旧」を人工知能(AI)で実現することができます。
従来のネットワークスライシングでは、無線アクセスネットワーク(RAN)、コアネットワーク、伝送がそれぞれ異なる技術でネットワークスライスを実現しています。また、ネットワークを利用する地域やサービスごとにネットワーク機器に細かな設定を加えていかなくてはなりません。
一方、ネットワークスライシングにオーケストレーターを用いることで、多岐に渡るネットワーク要求に基づき、ネットワークスライシングを正しく設計し、何十万という機器の中から対象となる機器に自動でスライスを設定することが可能となります。
ネットワークユーザーへの通信サービス品質を維持するために、通信事業者は各ユーザーに提供している通信サービスの品質を監視して、品質に影響するようなネットワークスライスの問題を直ちに検出する必要があります。 オーケストレーターは、作成したスライスの通信サービス品質に関する情報を自動で監視しながら通信サービスの劣化を検出し、適切な品質への復旧を自動で行うこともできます。
ユーザーが利用している通信サービスに影響が出る障害が発生した場合に通信事業者は、別のデータセンターへアプリケーションを移動したり、通信経路を変更したりするなど、速やかに通信サービスの復旧を行う必要があります。オーケストレーターを用いることで、人手を介さずに障害の原因を特定し、適切な場所へのアプリケーション移動や通信経路変更が可能となります。
楽天モバイルは、ネットワークスライシングを利用した実証実験を行いながら、ネットワークスライスオーケストレーション技術の開発を進めています。2021年10月には、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の委託を受けて研究開発を進めていた楽天モバイルのネットワークスライシング技術と日本電気株式会社(NEC)の画像解析技術を連携させ、ネットワークスライシングを用いた侵入者検知システムを構築しました。
楽天モバイルのネットワークスライスオーケストレーション技術により、以下の3点が実現可能となります。
ネットワークリソースには限りがあるため、効率的に割り当てなければ、一部のネットワーク利用が全体のネットワークに負荷をかけ、他の通信サービスに影響を与えてしまう可能性があります。
そのような事態を防ぐために、例えば8K映像配信であれば、ユーザー端末側からインターネット側に向けた通信(アップリンク)に多くのネットワークリソースを割り当て、動画視聴であればインターネット側からユーザー端末側に向けた通信(ダウンリンク)に多くリソースを割り当てることで安定した速度を保証します。サービスごとに細かい制御をかけることで、ネットワークリソースを効率的に割り当て、ユーザーが求めるサービス品質を保証します。
ライブパブリックビューイングにおけるネットワークスライスオーケストレーションの活用
5Gで期待される超遅延通信を実現するためには、次の2点を達成する必要があります。1点目は、マルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)をユーザーに近い場所にあるデータセンターに配置し、超遅延通信を必要とするアプリケーションをMEC上で動作させることです。2点目は、特定のサービスが利用する通信のみがMECに接続されるよう、経路となるすべてのネットワーク機器に対してエンドツーエンドでスライスを生成することです。
例えば、ロボットアームや重機が設置されている場所から最も近いデータセンターにMECおよび遠隔操作アプリケーションを置き、超低遅延(URLLC: Ultra-Reliable and Low Latency Communications)のネットワークスライシング接続をすることによって、遅延を限りなく抑えた遠隔操作ができるようになります。
ネットワークスライシングの技術が存在しない場合、IoTデバイスはユーザーのスマートフォンと同じ一台の端末として認識されることになります。IoTデバイスのうち、特にテレメトリーデバイス(注)は高速大容量通信を必要としないにもかかわらず、制御信号がテレメトリーデバイスに占有され、他のユーザーのモバイル通信がつながりにくくなる可能性があります。
5Gでは大量接続低容量通信(MIoT: Massive IoT)ネットワークスライスにIoTデバイスを収容し、通信速度を抑制しつつ制御信号の処理に長けた専用のパケットコアに接続することで安定した通信サービスの提供を実現します。IoTデバイスやスマートフォンといった異なる通信特性を持つデバイスを、異なるネットワークスライスに割り当てることにより、大量のIoTデバイスがネットワークに接続されたとしても、他の通信サービスに影響を及ぼすことなく、高い品質を保つことが可能となります。
楽天モバイルは、引き続き5Gにおけるネットワークスライシングの実現に向けて、技術開発を進めてまいります。
(注)テレメトリーデバイスとは、通信ネットワークを使って遠隔にあるデータを取得する計測器のことです。
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