【技術解説】エッジコンピューティングとは?(医療体制で例えてみました)

この【技術解説】シリーズは、楽天モバイルのネットワークに生かされているテクノロジーや今後注力していくテクノロジーを解説する連載記事です。今回は、「エッジコンピューティング」を取り上げます。

最近、毎日のように5G(第5世代移動通信システム)やエッジコンピューティングといった新しいテクノロジー用語を耳にします。新しいテクノロジーが、具体的にはどういうもので、5Gとエッジコンピューティングがどのように関係し、どう活用できるのか、正確に理解するのはなかなか難しいかもしれません。

5Gのネットワークを構築している楽天モバイルにとって、エッジコンピューティングは非常に重要なテクノロジーの一つです。今後、研究開発に注力していくため、楽天モバイルではオートノマス・ネットワーキング・リサーチ&イノベーション部門(Autonomous Networking Research & Innovation Department )を設立しています。

 

医療体制に例えてみる

エッジコンピューティングとそのテクノロジーによって実現するさまざまな可能性について、わかりやすく説明するため、医療体制に例えて考えてみます。

例えば、医療施設です。まず、医療施設は多様なサービスを提供し、規模もさまざまで、いろいろな場所にあります(サービスが分散している、と言えます)。

クラウドコンピューティングは総合病院のような存在。あらゆるサービスを提供するが、遠い場所にある。一方エッジコンピューティングは診療所のような存在。提供サービスは限られるが、近所にある。

例えば、総合病院は「クラウドコンピューティング」と同じような位置づけです。総合病院は、あらゆる種類の医療サービスを提供するものの、利用者から遠いところに立地しており、また、経営に多額のコストがかかります。一方、診療所は「エッジコンピューティング」と同じような位置づけです。より限定した種類の医療サービスを提供する診療所は、利用者にとって便利な場所に立地しており、経営コストや運営コストも抑えることができます。また、診療所は、総合病院への負荷を軽減する役割も担っています。

一般的には、診察を受けたい場合、まず、地元の診療所に予約を入れ、医師や看護師に診てもらいます。診断結果に基づき、薬を処方されるか、総合病院への紹介状を書いてもらいます。(ただし、軽い症状の時のみです。緊急時や脳の外科手術を受けたい場合は、総合病院に行く必要があります。)

診療所はどこにでもあり、内科や歯科など診療内容によった医療サービスを提供しています。一方、総合病院は、数がはるかに少ないものの、幅広い医療サービスを提供しています。

これら異なる役割を組み合わせることで、包括的な医療サービス体制になるわけです。

 

エッジコンピューティングは「診療所」

それでは、医療サービスの仕組みはお分かりいただけたと思うので、もう少し具体的に見ていきましょう。エッジコンピューティングはクラウドコンピューティングと同様、一種の分散コンピューティングシステムです。分散コンピューティングは、非常に複雑な分野ですが、簡単に説明すると、1台または複数台の接続された計算装置を使ってどのように作業を行うかということです。これらの計算装置(または計算ノードとも言います)は、たくさんの診察室がある総合病院のように同じ場所に置かれていることもあれば、診療所のように地理的に異なる複数の場所に分散されている場合もあります。

分散コンピューティングシステム

何らかの作業を行うため、1台または複数台の接続されたデバイス(計算装置)をどう使うかということ。

エッジコンピューティングは分散コンピューティングシステムの一種

社会には、たくさんの診療所と総合病院が存在しているように、分散コンピューティングにおいても、作業を行う計算ノードを複数用意しておくことで、タスクを共有し、万一問題が生じたときのためにバックアップ用の計算ノードを用意し、複数の計算ノードを別々の場所に置くことで、物理的な冗長性と利便性の確保につながります。

医療業界を1つの大きな円だとすると、円の中心にある総合病院から一部のサービスを切り離し、そのサービスを円の端の方にいる利用者に提供すること、その際、サービスを利用者の近くにある診療所を通じて提供すること、これがまさにエッジコンピューティングと同じことなのです。

計算処理の観点から見て、これには主に3つの利点があります。

  1.  ユーザーとサービス間の応答時間(待ち時間)を短縮することで新たなサービスを可能にする。
  2.  ネットワークにかかる負荷を軽減する。
  3.  バックエンドサーバにかかる負荷を軽減する。

エッジコンピューティングがどういうものか、分かりやすくなったでしょうか?

考え方としては、このとおりですが、実現するのは別の話です。「The devils in the details.(悪魔は細部に宿る。)」ということ言葉があるとおり、あらゆる場所に落とし穴があるものです。楽天モバイルの研究チームであるオートノマス・ネットワーキング・ラボ(Autonomous Networking Lab)は、次のような課題に取り組んでいます。

  • 各計算ノードにサービスとリソースをどう配置するか
    (例:医師とX線装置をどこに、どのような理由で配置するか?)
  • 分散システム用にアプリケーションをどうプログラミングするか
    (例:診療所と総合病院が提供するサービスを正しく記述する方法はどうするか?)
  • 障害への対処法
    (例: X線装置が故障した場合や外科医が姿を見せなかった場合どうなるのか?)
  • サービスに対する需要増にどう対処するのか
    (例:市内の全患者が1人の医師に同時に診察を受けたい場合はどうなるのか?)
  • システムの監視方法
    (例:X線装置の故障や外科医の不在を把握することはもちろん、診療所や総合病院の患者から感染症の発生や流行をどのように判別するのか?)
  • システムの「健全性」をどう定義するか
    (例:病人1人あたりの苦情件数はどれくらいか?)

 

楽天モバイルの研究チーム

例えば、総合病院の管理責任者のような位置づけで、AI(人工知能)により、数100万の利用者を抱える実際のネットワーク上で、これらすべての課題をどうやって自律的に実現するのか。

楽天モバイルの研究チームは、こうした課題の解決に取り組んでいます。楽天モバイルでは、英国のクイーンズ大学ベルファストやグラスゴー大学と連携し、産学でエッジコンピューティングに関する研究開発を進めています。

 

さいごに

モバイルネットワークでは、お客様に近いところにデータセンターを設置することで、それをエッジデータセンターとして活用し、ネットワークにおけるデータ処理を分散することができます。楽天モバイルは、エッジコンピューティング技術を活用して、ネットワーク全体にかかるデータ処理負荷の軽減や低遅延でスピーディなネットワーク体験をお客様に提供していきたいと考えています。

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