楽天モバイルとNEDO、仮想化技術を用いた5G SA無線アクセス装置の構築・各種実証に成功
- 日本発の5Gモバイルネットワークプラットホームの世界展開を加速 -
楽天モバイル株式会社(以下「楽天モバイル」)と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(New Energy and Industrial Technology Development Organization、以下「NEDO」)は、NEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」(以下「本事業」)の一環で楽天モバイルは、汎用ハードウエアとクラウド技術を用いた完全仮想化「Stand Alone(SA)方式5Gモバイルネットワーク(5G SA)」無線アクセス装置を構築し、商用化に向けた各種研究を完了しました。
本事業では、仮想化技術を用いて5G SA、RANネットワークスライシングの実装、各種機能拡張と性能向上を行い、専用のハードウエアおよびソフトウエアを必要とする従来型のモバイルネットワークと比較して、設備投資(CAPEX)・運用コスト(OPEX)を30%以上削減しました。これにより汎用ハードウエアを用いた、経済性の高い5G SAの普及が大きく加速されます。
楽天モバイルは今後、本技術を商用の5G SAに導入し、傘下の楽天シンフォニー株式会社(以下「楽天シンフォニー))を通じて、日本発かつ世界最先端の完全仮想化5G SAプラットホームの世界展開を加速します。
1.概要
5Gおよびポスト5G社会の進展にともない、超高速・超低遅延・多数同時接続といった特徴を活用したサービスの需要増加が予測されています。各種サービスでの高度なネットワーク品質要求に対し、高い信頼性や経済性を持つ高い通信装置の開発が必要となります。
このような背景の下、NEDOは、本事業(注1)においてポスト5Gに対応した情報通信システム(以下「ポスト5G情報通信システム」)の中核となる技術を開発することで、日本のポスト5G情報通信システムの開発・製造基盤強化を目指しています。その一環で楽天モバイルは、2020年7月より本事業で「仮想化5G無線アクセス装置の研究開発」(以下「本テーマ」)に取り組んできました。
本テーマでは、5G SA(注2)における、汎用ハードウエアとクラウド技術を用いた完全仮想化5G無線アクセス装置の拡張に取り組んできました。そして今般、超高速・超低遅延・多数同時接続を実現するRANネットワークスライシング(注3)の実装、各種機能拡張および性能向上を実施し、商用化に向けた各種研究を完了しました。その結果、クラウドプラットホームやソフトウエア処理に起因するオーバーヘッド(処理の増加)に対処することで、既存LTEネットワークに比べて3倍以上の接続端末数のサポートが可能となりました。
今回の成果により、専用システム(専用のハードウエアおよびソフトウエア)を用いた従来型のモバイルネットワークと比較して、設備投資(CAPEX)・運営コスト(OPEX)(注4)を30%以上削減し、高信頼性・柔軟性・経済性を持つ5G SAの構築が可能になります。
2.今回の成果
(1)無線アクセス装置における5G SAの開発
仮想化技術を用いた無線アクセス装置を用いて、5G SAの各種基本機能のエンドツーエンド接続試験を完了しました。これにより、5G SAサポート端末と楽天モバイルの5G SAを用いて無線からコアネットワークまで完全仮想化された5G SA上での通信を可能にしました。また、商用展開時の運用効率向上のため、無線アクセスネットワークの構築から運用・保守までを自動化する仕組みを構築しました。
(2)RANネットワークスライシング機能の有効性を確認
NEDOの委託事業「AIを用いた5Gスライスオーケストレーション高度化技術(注5)」と協調し、RANネットワークスライシングの機能開発を行いました。これにより、5G SAの最大の特徴の一つである超高速・超低遅延・多数同時接続の実現が可能となります。これらの特徴の検証一例として、日本電気株式会社(以下「NEC」)の映像解析技術を搭載した侵入検知システム(FieldAnalyst for Scene Understanding(注6))と、本研究で開発した5G SA上で動作するRANネットワークスライシング機能を連動するシステムを構築しました(図2)。その結果、侵入検知時にRANネットワークスライシング機能によって、リアルタイムに5G無線帯域を拡張し、通常時より高画質かつ低遅延で映像監視を行うことが可能となり、本機能の有効性を確認できました(図3)。
(3)商用化に向けた機能拡張および性能向上
仮想化技術の導入にともない発生するクラウドプラットホームやソフトウエア処理に起因するオーバーヘッドを考慮した上で、今後ネットワークに要求される性能向上や機能拡張を見据えた研究項目を設定し、開発と検証を行いました。特に、基地局のDistributed Unit(DU)(注7)、Radio Unit(RU)(注8)サポート数拡張では、1vCU(Virtualized Central Unit)(注9)あたりのセル数(注10)を256セルまで拡張することによって、クラウドリソースを削減し、従来型LTEネットワークに比べて3倍以上の接続端末数のサポートが可能となりました(図4)。また、TCP stabilizer(注11)検証では、仮想化環境下の最適な位置にTCP stabilizerを配置することによって、複数端末によるエンドツーエンドでのTCP通信トラフィックの安定化と総合的なスループットの向上を確認しました(図5)。
3.今後の予定
本研究成果を商用の5G SAに導入することで開発や運用コストが低減され、あらゆるモノがインターネットでつながるIoTなど、5Gネットワークを用いたさまざまなサービスでの高度なネットワーク品質要求に柔軟に対応できます。これにより、現状の通話・インターネット閲覧などの用途だけではなく、暮らしやビジネス上の利便性向上にも寄与することが期待できます。
楽天モバイルは、本技術を商用の5G SAに導入し、新たなサービスや産業の創出を促すことで生活の利便性向上や産業の発展に貢献するとともに、傘下に持つ楽天シンフォニーを通じて日本発かつ世界最先端の5Gモバイルネットワークプラットホームの世界展開を加速いたします。
NEDOは、本技術開発をはじめ、今後もポスト5Gに対応した情報通信システムの中核となる技術を開発することで、日本のポスト5G情報通信システムの開発および製造基盤の強化を目指します。
(注1)本事業
事業名:ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ポスト5G情報通信システムの開発/仮想化5G無線アクセス装置の研究開発
事業期間:2020年度~2023年度
事業概要:ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100172.html
(注2)5G SA
Stand Alone(SA)方式5Gモバイルネットワーク(5G SA)は、5G専用のコアネットワーク設備である5GC(5Gコア)と、5G基地局を組み合わせて通信をする方式です。
(注3)RANネットワークスライシング
通信サービスに応じて通信経路を論理的に分割(スライシング)する技術です。スライスごとに速度、遅延、誤り率など、通信品質を決めるパラメータを定義することができ、サービスごとに特徴を出すことが可能な5G SAの特徴的な技術の一つとなります。
(注4)設備投資(CAPEX)・運営コスト(OPEX)
CAPEX、OPEXは、投資費用の総額を以下の記載の通り試算し比較しています。
CAPEX:モバイルネットワーク全体に対して当研究成果が寄与するRANの開発および設備投資費用を従来型モバイルネットワークと比較
OPEX:モバイル事業全体に対して当研究成果が寄与するRANの運用費用を従来型モバイルネットワークと比較
(注5)「AIを用いた5Gスライスオーケストレーション高度化技術」
(参考)NEDO、リリース(2022年10月27日)「人工知能(AI)を用いた5Gスライスオーケストレーションの高度化に成功」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101585.html
(注6)FieldAnalyst for Scene Understanding
動く物体のリアルタイム検出と高精度な行動検知を同時に行う、NEC独自のAIによる映像解析技術を活用した製品です。
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sl/fieldanalyst/fa_02/aisu/index.html
(注7)Distributed Unit(DU)
一次変復調処理や誤り訂正、再送制御などの信号処理を行う部分です。
(注8)Radio Unit(RU)
無線変復調および二次変復調処理を担う部分です。
(注9)vCU(Virtualized Central Unit)
IPパケットのヘッダ処理や暗号化処理、通信に必要な制御信号処理を担う部分です。
(注10)セル
100MHz幅の通信を何本収容できるかの単位となります。
(注11)TCP stabilizer
ユーザごとにTCPセッションの最適化を行うことで、ユーザスループットの安定化や公平性を向上させる装置ならびに技術です。
※FieldAnalystは、NECソリューションイノベータ株式会社の登録商標です。
※本プレスリリースに掲載の商品名称やサービス名称などは、一般に各社の商標または登録商標です。
※本プレスリリースにおける各社の商標記載においては、™や®などの商標表示を省略する場合があります。
以上
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