楽天モバイルとNEDO、人工知能(AI)を用いた5Gスライスオーケストレーションの高度化に成功

- ネットワークスライスの構築から運用までの自動化率77.5%を達成 -

 楽天モバイル株式会社(以下「楽天モバイル」)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」)Stand AloneSA)方式5Gモバイルネットワーク(以下「5G SA」)において、通信を行う二者間(エンドツーエンド)でネットワークスライスを自律的・自動的に運用する「ネットワークスライシングオーケストレーション技術」と、人工知能(AI)をオーケストレーターに組み合わせて5Gネットワーク運用を高度化する「AIを用いた5Gスライスオーケストレーション高度化技術」の新たな開発に成功しました。 

 NEDOはポスト5G(第5世代移動通信システム)情報通信システムの開発・製造基盤強化を目指して「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」に取り組んでいます。その一環で楽天モバイルと共に新たに開発したこれらの技術を導入したモバイルネットワークでは、ネットワークスライスの構築から運用までの自動化率77.5%を達成しました。従来は人の手を介して運用管理する必要がありましたが、自動的な運用管理を可能とすることで、日々のネットワーク構成の変更や、サービスの追加など、膨大な作業数の削減につながり、コスト削減と品質の向上が期待できます。

 今後、楽天モバイルは本技術を商用の5G SAに導入することで、現状の通話・インターネット閲覧などの用途にとどまらず、IoTや仮想現実(VR)、ドローン動画配信といった、さまざまなサービスで高度なネットワーク品質要求に柔軟に対応し、それぞれのユーザーに対し安定した体感品質の提供を目指します。

図1 エンドツーエンド ネットワークスライシングオーケストレーションイメージ

1.概要
 ポスト5G社会に向けて、さまざまな分野のサービスで5Gネットワークが活用されることが予想されています。各種サービスでの高度なネットワーク品質要求に対し、きめ細やかな対応を行うためには、ネットワークが「超高速・大容量」、「超低遅延」、「同時多数接続」を満たすとともに、サービスに応じてモバイルネットワークを仮想的に分割して運用する技術「ネットワークスライシング(注1)」に対応することで、ネットワーク帯域などの限られたリソースをそれぞれのサービスへ最適に割り振り、サービス品質を高めることが必要となります。

 このような背景の下、NEDOはポスト5Gに対応した情報通信システム(ポスト5G情報通信システム)の中核となる技術を開発することで、日本のポスト5G情報通信システムの開発・製造基盤強化を目指しています。その一環で楽天モバイル株式会社は、2020年8月から「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業(注2)」に取り組んできました。

 今般、楽天モバイルとNEDOはStand Alone(SA)方式5Gモバイルネットワーク(5G SA)(注3)において、通信を行う二者間(エンドツーエンド)でネットワークスライスを自律的・自動的に運用する「ネットワークスライスオーケストレーション技術(注4)」と、人工知能(AI)を「ネットワークスライシングオーケストレーション技術」に組み合わせることで5Gネットワーク運用を高度化する「AIを用いた5Gスライスオーケストレーション高度化技術」の新たな開発に成功しました。これらの技術を導入したモバイルネットワークでは、ネットワークスライスの構築から運用までの自動化率(注5)77.5%を達成しました。従来は人の手を介して運用管理する必要がありましたが、自動的な運用管理を可能とすることで、日々のネットワーク構成の変更や、サービスの追加など、膨大な作業数の削減につながり、コスト削減や品質の向上が期待できます。

 今後、本技術を商用の5G SAに導入し、ネットワークスライシングを活用することにより、現状の通話・インターネット閲覧などの用途にとどまらず、あらゆるモノがインターネットでつながるIoTや仮想現実(VR)、ドローン動画の配信といった、5Gネットワークを用いたさまざまなサービスからの高度なネットワーク品質要求に柔軟に対応することができます。さらに、新たなサービスや産業の創出を促すことで国民生活の利便性向上や産業の発展、国際競争力の強化に貢献します。

 本研究開発の成果を生かして楽天モバイルは、2023年をめどに商用5G SAに本技術を導入し、ネットワークスライシングを用いて高品質なネットワークサービスの提供を目指します。また、楽天シンフォニー株式会社がグローバルに展開するプラットフォーム「Symworld™(注6)」のプロダクトに本技術を組み込み、世界中の企業に提供します。

 

2.今回の成果
 楽天モバイルとNEDOは、新たに開発したネットワークスライスの運用技術により以下の成果を得ました。

【1】完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワーク(注7)のさらなる高度化・効率化
 楽天モバイルは、完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワークの商用運用を世界に先駆けて開始し、汎用ハードウエア構成による大幅なシステムコスト削減、シンプルで自由度の高い基地局構成、ソフトウエアアップデートによる早期の5Gシステム構築などを実現しました。今後、5Gの特徴である「高速大容量」、「低遅延」、「多数同時接続」といったさまざまなユーザー品質要求に効率的かつ柔軟に対応するにはネットワークスライシングが不可欠であるため、今回の技術開発では、複雑化するネットワークスライスの運用自動化を実現するとともに、5G仮想化ネットワークのさらなる高度化や、効率化による運用効率の改善とサービス品質の向上を目標としました。

 具体的な成果として、スライシングを正しく設計し、オペレーション支援システム(OSS)との連携により対象となる機器(基地局・ルーター・5Gコア)において自動でネットワークスライスの構築・復旧・拡張などを行うシステム(ネットワークスライスオーケストレーション技術)を確立しました。さらに、(1)クラウドネイティブなAIプラットフォーム上で動作するAIによるユーザートラフィック予測(注8)の結果からリソースの適切な増設や、エラーを予防するための処理能力の変更、(2)サービス品質劣化の検知や主原因特定を行うAIの導入による速やかな自動ネットワーク復旧、(3)AIによるアプリケーションの最適配置提案に基づくネットワーク全体での効率的なリソース利用など、AIと「ネットワークスライスオーケストレーション技術」を組み合わせた高度化、効率化(AIを用いた運用高度化技術)を実現しました。最終的にネットワークスライスオーケストレーターおよびOSSと連携し、リアルタイムなユーザートラフィックの取得・処理を行えるように改良を加え、リアルタイム運用自動化を実現しました。

 今回の技術開発により、他社に先駆けて完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワークにおけるネットワークスライスの運用自動化やオーケストレーションを可能にし、柔軟、簡易、正確、効率的な運用システムの提供を実現しました。ネットワーク品質についても、モバイルネットワークオペレーターとしての運用ノウハウ、運用データを反映し、より高品質なキャリアグレードの品質提供が可能となりました。

図2 AIを用いた運用高度化技術のシステム

【2】ネットワーク運用効率の改善結果
 今回の技術開発では、運用効率の指標として自動化率を定義し、技術開発終了時の目標として、自動化率70%を設定しました。結果的に開発終了時の業務全体としての自動化率は77.5%となり、目標を上回る成果を達成しました。主な運用効率改善要素として、スライス構築に関わる作業で76%の自動化、問題の検知・分析・対処までの運用オペレーションに関わる作業で81.5%の自動化が挙げられます。

 自動化率改善により、サービス(スライス)構築時の設定、運用開始後のサービス品質監視、故障検知、ネットワークパフォーマンスの分析、障害・タスク管理、リソース最適化、異常リカバリー、ソフトウエアのアップデート、メンテナンスなど、ほぼすべての運用タスクで作業数を削減でき、ターン・アラウンド・タイム(TAT)(注9)の短縮、コスト(CAPEX/OPEX)削減、品質の向上に大きく寄与します。

 

(注1) ネットワークスライシング
単一のネットワークインフラを仮想的に分割(スライシング)し、多様なニーズや用途に応じたサービスを提供できるよう複数の論理ネットワークとして提供・運用する技術です。
(注2) ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業
事 業 名:ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ポスト5G情報通信システムの開発/クラウド型ネットワーク統合管理・自動最適化技術の開発(OSS/MANOのソフトウェア)の研究
事業期間:2020年度~2022年度
事業概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100172.html 
(注3) Stand Alone方式5Gモバイルネットワーク(5G SA)
5G専用のコアネットワーク設備である5GC(5Gコア)と、5G基地局を組み合わせて通信をする方式です。
(注4) ネットワークスライスオーケストレーション技術
ネットワークを用途に応じて仮想的に分割する技術「ネットワークスライシング」をエンドツーエンドで自動的に設計・構築・運用する技術です。
(注5) 自動化率
ネットワーク構築から運用に必要な全作業量に対し、自動化を行う前後の作業数を比較して、削減された作業数の割合をいいます。
(注6) Symworld™
楽天モバイルの完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワーク技術および自動化技術を組み込んだ次世代のネットワークソフトウエアアプリケーション群です。既存および新規のネットワークの計画、設計、展開、運用、保守、管理をクラウドの迅速性・規模と同じように行えるように、産業における自動化とデータドリブン(データ駆動型)なソリューションを実現します。
(参考)楽天シンフォニー株式会社プレスリリース(2022年2月28日)「楽天シンフォニーと米・AT&T、通信事業者向けネットワーク設計・構築ソリューションの強化において協業」 https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2022/0228_04.html 
(注7) 完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワーク
専用のハードウエアを使わず、汎用ハードウエアとソフトウエアでネットワークを構築し、必要な処理を可能な限りクラウドで実行するネットワークです。
(参考)楽天モバイルホームページ/イノベーション/完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワークhttps://corp.mobile.rakuten.co.jp/innovation/cloud-network/?l-id=corp_gnavi_cloud-network 
(注8) ユーザートラフィック予測
将来ユーザーが使用するネットワークの需要を予測する技術です。
(注9) ターン・アラウンド・タイム(TAT)
システムに処理要求を送ってから、処理応答を受け取るまでの時間をいいます。

 

以上

※ここに掲載されている情報は、発表日現在の情報です。最新の情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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